お・い・し・い・エッセイ

ホーム > お・い・し・い・エッセイ 画家が描いた「銘菓」~「武井武雄『日本郷土菓子図譜』」より~

菓子袋

『コドモノクニ』や『キンダーブック』で大活躍した童画家の武井武雄は、昭和11年から22年間、日本各地の郷土菓子を丹念に記録し、3 冊の私家本『日本郷土菓子図譜』に残しました。
その中には、全国銘菓の加盟店が作り続けている菓子の数々も描かれていました。

 まずは、水彩でスケッチされたお菓子の数々をご覧ください。餅菓子、羊羹、煎餅……。美味しそうでしょう?ここにご紹介したスケッチは、童画家の武井武雄の『日本郷土菓子図譜』(イルフ童画館蔵)から、全国銘菓加盟店のお菓子が掲載されたページを抜き出したものです。

 武井武雄は、大正後期から昭和にかけて活躍した童画家です。明治27年(1894)に現在の長野県岡谷市に生まれ、東京美術学校では黒田清輝や藤島武二に西洋画を学びました。そして、卒業まもなくから児童雑誌に絵を描き始め、大正11年(1922)に『コドモノクニ』 が創刊すると、表紙絵とタイトルロゴを担当。モダンでファンタジックな武井の絵は、子どもばかりか大人をも魅了していきました。
 その武井が『日本郷土菓子図譜』を作り始めたのは、昭和11年(1936)の夏のこと。和紙を綴じて本の形にし、そこに日本中の郷土菓子を記録し ていったのです。
 まず見開き2ページに包装紙や商標ラベル、しおりなどを貼り、次の見開きにお菓子の姿を水彩画でリアルに描くのが基本のスタイルです。絵の余白には、材料や製法、由来、さらに味の感想や入手した日付、お菓子を送ってくれた人の名前も記しました。

 この記録は、戦時中の中断期をはさんで22年間も続きました。全3巻、各巻200 ページほどの図譜には、全部で169 点のお菓子が紹介されています。
 表紙の装丁にまでこだわり抜いた、世界に1つだけの私家本『日本郷土菓子図譜』。武井は、なぜこのような本を作ったのでしょう。激動の時代に、郷土菓子の行く末を案じていたからでしょうか。
 描かれたお菓子の多くが、今も作られ、愛されている奇跡を、美しいスケッチを愛でながら喜びたいと思います。

武井ワールドを存分に楽しめる美術館。
武井武雄が描いた童画や版画作品を展示しており、出版物となった作品を鑑賞できる部屋なども設けられています。『日本郷土菓子図譜』は企画展などでのみ公開。
ミュージアムショップや、ゆったりくつろげるカフェも併設。

住所:長野県岡谷市中央町2-2-1
● 開館:10 時〜19 時
● 休館:水曜(祝日は開館)、年末年始
● 入館料:一般510 円ほか
● 0266( 24 )3319
http://ilf.jp

● 写真提供:新潮社、撮影:青木登(新潮社写真部)