菓子街道を歩く

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青柳総本家 名古屋の文化「ういろう」を伝えて

大須観音(北野山真福寺寶生院)。節分に行われる「宝船行列」や「鬼追いの儀式」でも知られる「大須の観音さま」。真言宗智山派の別格本山。


観音様のお膝元で

 名古屋駅の南東に、正月三が日で50万人余の初詣客を集める名刹、大須観音がある。
 徳川家康が名古屋に城下町をつくる際に、水害の多い大須郷(現在の岐阜羽島市内)からいち早く移した寺院で、移転によって『古事記』の最古写本など国宝4点を始めとする約1万5千点もの貴重な古典籍が今に伝えられている。これも観音様のご利益というものだろう。
 さて、参拝を終えたら仁王門を出て大須商店街へ。江戸時代から続く門前町が今、若者や外国人にも大人気の観光スポットとなっている。
 名古屋めしに昭和レトロな喫茶店、韓国スイーツの食べ歩きに、古着ショップ巡り。千軒を超える商店が生み出す魅力は、ごちゃ混ぜ感だ。
 その賑やかな商店街の中でも、ひときわ目を引くのが名古屋銘菓「青柳ういろう」で知られる青柳総本家の本店。黒漆喰壁の外観に総欅造りの店内。床には大理石が敷かれ、見上げれば格天井。創業百年目を迎えた1979年に、初代の建てた店をそのまま再現したのだという。
 大須の歴史を彩ってきた老舗に、昨年6代目当主を継いだ後藤稔貴さんを訪ねた。

「彩雲堂」6代目当主・山口周平さん
「青柳総本家」6代目当主・後藤稔貴さん。1989年生まれ。特技はDJ。今もイベントなどで時折、腕前を披露している。

門前土産から日本中へ

——青柳総本家は、ここ大須で創業されたそうですね。
後藤「初代・後藤利兵衛が、明治12年(1879)に大須門前通りに蒸し羊羹の店を出したのが始まりです。
 元は綿を扱う商家でしたが幕末の混乱で没落し、店を借りる資金もなかったそうです。そこで家宝の銘刀3振りを尾張徳川家に献納したところ、お金に加えて、蒸し羊羹毎日百本お買い上げの命を戴き、青柳の屋号も徳川慶勝公から賜ったと伝わっています」

——良い屋号に、お店も繁盛されたでしょう。
「はい。すぐに軌道に乗ったようで、まもなくういろうも始めました。ういろうは砂糖、米粉、澱粉を湯で煉って蒸して作る、材料も作り方もシンプルな菓子ですが、それだけに各店の違いが出ます」

——門前町のほかの菓子店と味を競いながら。
「その後、濃尾地震や大須の大火などで店が全焼するような危機もありましたが、そのたびに立ち上がって、代を重ねるごとに店舗が増えていきます。3代目は名古屋駅構内の売店とプラットホームで立ち売りを始め、売上を飛躍的に伸ばしました。
 また戦後、4代目は東海道新幹線の開通に合わせて全列車で青柳ういろうの車内販売を始めました。実は、それに先駆けてオートメーション化した新工場を造り、ういろうを最新の充填製造に切り替えたのです。この技術革新で、青柳ういろうは安心してお土産にできる、おいしく日持ちのする菓子になりました」

「青柳ういろう(抹茶、さくら、しろ)」。外箱に描かれた「柳にカエル」の意匠は杉本健吉、「青柳ういろう」の文字は柳宗理の手による。

「カエルまんじゅう」

「笑顔」製造業

——後藤さんは、いつ頃から家業を継ぎたいと考えられたのですか?
「僕は子どもの頃から、やんちゃばかりしていたんです。特に大学時代に出合ったDJは魅力的でした。卒業後もサラリーマンをしながら続けたほどです。ただ、同じくらい夢中になれる仕事には出合えなかった。それで、ある日、父に『海外で10年程仕事をして経験を積みたい』と話したんです。すると、それまで何も言わなかった父が、『家業に入れという強制はしないが、いつか入るつもりがあるなら今、このタイミングで入れ。自分で考えて、決めろ』と」

——10年後に戻って来ても会社に迎える気はないと。
「そうです。悩み抜いて結局、家業に入る道を選びました。
 ただ、入社してわかったのですが、20代のうちは周りの人たちがきちんと教えてくれるんですね。製造、販売、喫茶などで1年程ずつ勤務しながら、いろいろな場面でそのことを実感しました。そして本社業務に就いたのが、2019年の12月です」

——年明けすぐにコロナ禍が始まりました。
「はい、本当に大変でした。最悪でマイナス95%まで月の売り上げが落ち込みました。
 未来が見えない中、始めたのが会社の理念づくりです。まだ社長でもないのですが、この危機に会社の舵取りをするなら理念が必要だろうと。そして社史や経営書を読みあさるうちに見えてきたのが、青柳は人を笑顔にする商品や空間をずっと提供してきた会社だということでした。
 そこで会社の理念を『青柳総本家に関わる人を笑顔に』、本業の定義を『笑顔製造業』としました」

——菓子製造業ではなく?
「そこを超える企業に改革していこうと」

ういろうは名古屋の文化

——コロナ禍でも、続々とヒット商品が誕生しましたね。
「社員のアイデアから生まれた『ケロトッツォ』が最初のヒットです。『カエルまんじゅう』にクリームをはさんだ菓子ですが、表情がかわいらしいと店の前に行列ができました。
 ういろうは、異業種とのコラボを仕掛けました。まず、初音ミクとのコラボが大評判になって、そのあとスライム、エヴァンゲリオン、ポケモン……と。
ただ、コラボ商品は青柳ういろうを話題にしてもらうための商品です。ですからパッケージに趣向を凝らしたり、ういろうに色を付けたりはしていますが、ういろうの味は変えていません。
 コラボをして伝えたいのは、『♪しろ、くろ、抹茶……』とCMソングでも歌われている昔から作り続けている青柳ういろうのおいしさです。
 ケロトッツォも、あれがニュースになるとカエルまんじゅうが売れるんです。その意味で、まったく新しい商品はまだ生まれていない。それはこれからです」

——楽しみにしています。
「僕は、ういろうは名古屋の文化だと思っているんです。それは名古屋の人たちが育ててくださったものですし、社員が守ってきたものでもある。
 そのことに感謝しながら、この先もよりおいしい菓子を作っていきたいと思っています」

「青柳生ういろう 宇治しぐれ」。
生ういろうは、季節により栗や柚子なども販売される。

「青柳ういろう ひとくち 5個入り カエルバージョン」

大須・守山・KITTE店で常設販売している「ケロトッツォ」

KITTE名古屋店。併設のカフェでは、ういろうと抹茶のセットやパフェなどが楽しめる。

青柳総本家

名古屋市中区大須2-18-50
TEL:052(231)0194
https://www.aoyagiuirou.co.jp

青柳総本家

*バックナンバーも、このサイトでご覧になれます。
ぜひ、おいしくて心にしみる「菓子街道」の旅をお楽しみください。