菓子街道を歩く

ホーム > 菓子街道を歩くNo.130 秋田

秋田「米・酒・美人・そして秋田諸越」

マップマップ

 

秋田の地名は「秋の田んぼ」。この地を代表する風景は、秋田平野の水田風景である。

撮影/春日井 出 写真協力/秋田県総務部広報課、濱乃家

秋田流もてなしの心

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銘菓「炉ばた」(かおる堂)。日もちがよく、抹茶にも合う。

 「秋田が好きになってもらえればいいんです」と言って、秋田の人は心から旅人をもてなしてくださる。だから、たいていの人は秋田が大好きになってしまう。
しかし、実情は、「好きになったからって、あんまりやたらに訪ねてもらっても困るんです。仕事にならない。と言っては、またそういう人をもてなしてしまうんですよ、秋田の人は」
笑いながらこんな本音を吐いている秋田人は、銘菓「炉ばた」で知られるかおる堂の社長藤井明さん。大学卒業後、外で働いた経験もあるから、秋田を外側から見る目ももっているのだろう。
秋田空港でお会いした藤井さん、秋田市のご自分のお店より先に、「まず、秋田のいいところを見てもらわないと」と、角館へ連れていってくださった。

角館に残る秋田藩時代の気風

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角館の武家屋敷・青柳家の玄関。

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角館・安藤家の煉瓦造りの蔵。明治24年の完成で、東北最古の煉瓦建築。

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角館・安藤家製造の漬物。きゅうりやうりの粕漬け、ふかし茄子、詰め物をして輪切りにした千枚漬など。

 角館は檜木内川沿いだけでなく、武家屋敷のあたりもおびただしい桜である。花の見事さはもちろん、秋の桜紅葉の頃も美しいに違いない。
代表的な武家屋敷のひとつ青柳家に入って、邸内の広さに驚いた。同家に伝わる武器や武具を展示する武器蔵など見どころも多いが、樹木と季節ごとの草木の花が豊富な庭には、京都・嵯峨野の一角でも歩くような風情があった。
芦名氏、佐竹北家という名族がつくりあげた城下町の香りは、今も残っている。
角館の伝統工芸・樺細工の殿堂ともいうべき角館町伝承館をへて、角館きっての豪商安藤家へ。安藤家はもともと地主で、江戸中期から始めた味噌・しょうゆの醸造を今も続けている。ここでつくっている各種の漬物がまた、知る人ぞ知る逸品だ。

ブルーノ・タウトが会った初代かおる堂

 秋田市川尻町のかおる堂本社工場を訪ね、お菓子を作っているところを見学させていただいた。工場の白衣の人たちが、どこへいってもにこやかに挨拶してくださるのが、うれしい。
諸越は小豆粉と和三盆糖を混ぜたものを、木型に入れて作る。職人さんは粉を型にサッと入れてちょっと押し、とんとんと型をたたいて、ぽんと出す。
銘菓「炉ばた」は、昔からある秋田諸越を食べやすいように軟らかくし、小型化して、口溶けをよくするために和三盆糖の純度を高めている。白、こがし、抹茶、焼きの4種類。改良したのは藤井馨氏で、明さんの祖父に当たる。馨氏は秋田市の開運堂での修業をスタートとし、大正11年、自身の名前を店名に、秋田諸越専門の店としてかおる堂を創業した。
昭和初期に秋田を訪れたドイツの著名な建築家で親日家のブルーノ・タウトが、「冬の秋田」(『日本美の再発見』/岩波新書)のなかで、「秋田の銘菓“諸越”製菓所(かおる堂)を見学した際、そこの主人は、“ただ勝った、勝った!”とばかり教え込む学校の教育方針はよくないと言っていた」と、藤井馨氏の気骨を伝えている。

伝統の菓子を守る銘菓哲学

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きりたんぽ鍋(濱乃家)。秋田を代表する郷土料理。新米の出る9月から2月頃までが旬。

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秋田竿燈まつり。8月4日から4日間行われる東北三大祭りのひとつ。230本を超える竿燈、1万個の提灯が秋田市の竿燈大通りを揺れ動く。

 かおる堂の二代目は現会長の藤井茂さん。長年、秋田県菓子工業組合理事長も務め、抜群の経営手腕を発揮して、秋田県菓子業界での売り上げ1位、利益1位、法人納税1位という目標を立て、20年前に見事それを達成した。初代、二代の時代には、翁屋開運堂、杉山壽山堂という秋田菓子業界の老舗の名が消えるのを惜しみ、吸収合併する余裕もみせている。
三代目を継ぐ身としては、重圧を感じるところである。
ところが、明さんは、早くから菓子作りの道にはいった弟の潤さん(現・翁屋開運堂店主)が家業を継ぐものと思って、大手スーパーの各地の支店で腕をふるっていた。呼び戻されたのは時代の要請である。
明さんは7年前、「一乃穂」という秋田米だけを使用する商品を販売する新業態店を創出した。秋田の良米をベースに豆がき、紗舞玲、最中などに仕上げた一連の菓子を「秋田粢菓子」と称している。粢とは、本来は水に浸した生の米を搗き砕いて固め、神前に供えたりしたもの。「一乃穂」はヒットし、秋田米の用途拡大という面でも注目されて、今やかおる堂グループのエースの座に就きつつある。
しかし、明さんは一方で、三代の銘菓「炉ばた」を守りたいという気持ちを強く持っている。
「昔からの商品は、お客様が離れるより先に、売る側が、もう古いから駄目だと決めつけておろそかにし、売れなくしてしまうのがほとんどです。しかし、うちにはこれしかないという店は、古い商品でも時代時代に合わせながらなんとか売ろうと努力をするから、続いています。守ることも大事。お客様の新しい好みだけを追いかけていたら、何も残らないですよ」
これが、かおる堂の銘菓哲学である。

露天風呂で聞く清流の音

 秋田市では平野政吉美術館で縦3.65m、横20.5mという藤田嗣治の大作「秋田の行事」
を見た。藤田が平野翁の友人として当地で描いた傑作である。ここにはセザンヌ、ゴッホ、ピカソなどの作品も揃っている。
 夕食は市内の料亭「金茶」で秋田の幸をいただき、車で40分くらいのところにある協和町の唐松温泉に一泊した。唐松温泉は自然がいっぱい、露天風呂の下を清流が走る別天地だ。
この宿泊地まで送り届けたくださった藤井さんのもてなしは、やはり秋田流である。

(株)かおる堂本社工場

秋田市川尻町大川反170-82

【代表】018 ( 864 ) 4500 【Fax】018 ( 823 ) 8379

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かおる堂大町店(秋田市大町4丁目)の店内。前面が円形の建物で、内部も高い天井に円形の白いラインを見せた、高級洋菓子店の雰囲気。

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青柳家の邸内にある「一乃穂」の売店。
     

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開運堂(秋田市楢山登町)の外観。かつて川反通りにあった老舗を移し、高級和菓子中心の店として経営している。