菓子街道を歩く

ホーム > 菓子街道を歩くNo.154 神戸

神戸[おしゃれなお菓子人]

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朝の散歩

イメージハーバーランドから見た神戸の街。中央に神戸ポートタワー、背景の山は六甲山。

 港の見えるホテルで1泊し、朝の神戸の街を元町から三宮まで散歩した。
 それぞれ自前の名前をもった喫茶店が、店の前にめいめい工夫したモーニングセットのサンプルや看板を出していた。どの店のもおいしそう。こんな光景は東京の繁華街などでは、あまり見られなくなった。チェーン店全盛で、店の名前も同じならモーニングセットも画一的である。
 10時開店のお菓子屋さんなども、もう9時前から店内を明るくして、忙しく開店の準備をしていた。これも、気持ちのいい風景である。
 1日や2日いても、神戸の街が昔とどう変わったのかはわからない。ただ、高架下の商店街は、すばらしくきれいになった。トアロードの西側の路地路地に、おしゃれな若者向けのブティックがたくさんできていたが、あれはいつ頃からだろうか。
 観光スポットだけでなく、余裕があれば、神戸はぜひ街を歩きたい。そして、できればお店の人などとちょっと話もしたい。神戸の魅力は、人だと思うからである。

丸から四角へ

 菓子街道の取材の幸せは、たいてい、その町に育ち、その町の担い手になっている人たちに会えることだ。今回お訪ねした本砂屋の4代目、杉田肇社長(昭和27年生まれ)も、まさに元町の現在を担っている神戸っ子である。
 大丸神戸店の向かいから元町商店街に入って、1ブロック過ぎた左側、元町通3丁目に本砂屋の本店がある。有名な「砂きんつば」のお店だ。といっても、本砂屋は「エコルセ」などの洋菓子でも知られる店で、本店には和菓子館と洋菓子館が並んで建っている。
 杉田社長にお会いして、かねて思っていることを……。  「きんつばというと、関東のお菓子という印象があるんですが……」
 「たしかに、東京には昔からきんつばがありましたが、丸い形をしていたんです。刀の鍔の形だったんですね。それを明治30年に、私どもの初代杉田太吉が、角形の6面を焼く形に改良したんです」
 「じゃ、今ではどこでも作っている四角のきんつばは、こちらが最初に……」
 「はい、私どもが初めて売り出しました」
 発売当時から、店頭で実演販売をしたことも「砂きんつば」の人気を高めた。
 本砂屋は明治10年に初代が紅花堂を開店し、瓦煎餅の製造販売を始めたのが前身で、のちに本砂屋と改めた。2代目が洋菓子を好み、3代目がその志を継いで「エコルセ」を創製している。
この元町通りの本店だけで販売している「神戸エコルセ」を作るフランス製の機械を見せていただいた。鉄道の車輪の技術を応用したとかで、まさに汽車の車輪。使いこなせたのが3代目の杉田政二さんだけだったというのも、うなずける。
 「私どもが開発して、のちに似たようなお菓子がよそで作られている例もあるのですが、それを真似しないでくださいとは言わないことにしています。ただ、私は、やはり真似をして作ったお菓子は底が浅いように思います。新しいお菓子を作るなら、真似ごとでなしに、と思っています」
 「和」「洋」の垣根なく、「旨楽味遊」(旨さを楽しみ、味に遊ぶ)をモットーに、杉田さんはお菓子を考えている。
 日焼けした杉田さん、ゴルフの腕前はプロ級と聞く。「旨楽球遊」というところだろうか。

元町を劇場に

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南京町。元町通の南側の一画に中国料理店が集まり、観光スポットとしてもにぎわっている。

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元町商店街の入り口。ここから6丁目まで、1.2kmの長い商店街が続く。

 本高砂屋を出て、そのまま西へ向かうと、老舗の洋服店をはさんですぐの同じ元町通3丁目に神戸風月堂がある。
 神戸風月堂といえば、あの缶入りのゴーフル。口のなかで夢のように溶けてしまうゴーフルの味とともに、あの缶にメンコやおはじきなどの宝物を入れていた思い出を持つ人も少なくないだろう。
 神戸風月堂は、明治30年、初代吉川市三が元町に米津風月堂の支店として開店した。吉川の生家は、神戸で廻漕問屋と旅館を営んでいたが、市三は東京の米津風月堂で修業し、のれん分けを受けて故郷の神戸に店を出したのである。その後さまざまな事情で、神戸風月堂は米津風月堂の本店とは別個の店として発展することになった。創業当時から人気のアイスクリームをはじめ、シュークリーム、マロングラッセ、ワッフルと、洋菓子はなんでも。そしてこちらも創業当時からある和菓子にも力を入れている。
 ゴーフルを売り出したのは昭和2年。初めは、間にはさむクリームを1枚ずつ手で塗っていたという。
 ゴーフルには逸話が多いが、あのアルベルト・シュヴァイツァー博士が、アフリカで神戸風月堂のゴーフルを食べ、手紙で「ダンケ」といってきたことがある、というのには驚いた。
 最近まで4代目社長をしておられた下村俊子会長にお目にかかった。嫁いだ下村光治氏が3代目社長となったが、吉川市三の直系は俊子さんの方である。
 「私はお店にいても何の役にもたちませんから」とおっしゃるのは、もちろん謙遜だが、下村会長は現在、元町はもとより、神戸を活性化させるために、なくてはならないリーダーになっている。
 震災からの復興を音楽で、と始められた神戸元町ミュージックウィークは、今年9回目を迎えるが、この催しの実行委員長が下村さん。元町周辺のあらゆる場所で、クラシックを中心にポップスやシャンソンなど多彩なプログラムを、ホール・コンサート、ストリート・コンサートなどに組んで、今年も10月7日から 15日まで繰り広げられる。ぜひご来神を!
 2008年に姫路で開かれる『全国菓子大博覧会・兵庫』の実行委員長も、下村さんである。いずれも名誉職ではなく、情熱をもって取り組んでおられる。
 「神戸がこれからどういう町になっていくか、今がとても大事な時だと思っています」
 今回の菓子街道は、考え方も生き方も、おしゃれなお菓子人に出会った。

本高砂屋

神戸市中央区元町通3丁目2―11 TEL 078(331)7367

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    きんつばanフィーユ
さくさくのパイに、きんつば餡とクリーム。さらにバナナなど季節の果物をはさんでいる。和洋が溶け合う神戸らしい菓子。
  高砂きんつば・銀つば
皮は薄く、餡はたmっぷりとふくよかに。いまも店頭で一つ一つ職人が手焼きで仕上げている。

神戸風月堂

神戸市中央区元町通3丁目3―10  TEL 078(321)5555

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    衵扇(あこめ おうぎ)
(創作和菓子「源氏の由可里」から)
源氏物語をテーマとした創作和菓子シリーズの一つ。梅羊羮にねりきりを扇状に貼りあわせ、房には五色の小田巻を用いている。
  ゴーフル
薄く焼いた小麦粉の生地で、クリームをサンドした代表銘菓。しゃれた意匠の缶もおなじみ。