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米子の街を抱くように、名峰・大山が優雅な裾野を広げている。(写真協力:仙田 隆宏) |
米子街歩き
米子の街を歩いていると、小高い山の上に、遠目にも立派な城の石垣が、どこからでも見える。五重の大天守閣と四重の小天守閣があったという山陰きっての名城・米子城の跡で、明治初期に解体され、石垣だけが残ったのだ。
江戸時代の米子は、一部の自治が認められた自分手政治という独得の制度のもとで、家老が鳥取城の藩主から米子城を預って統治していた。
波静かな中海に港を持つ上に、松江に近く、早くから山陽との往来も開けていた米子は交通の要衝。そのため物資の集散地として「山陰の大阪」と呼ばれるほど商業が発達し、繁栄したのである。
市内中心部をほぼ東西に流れる旧加茂川沿いには、回船問屋であった後藤家住宅(一番蔵・二番蔵は国の重要文化財)や白壁の土蔵など、商都米子をしのばせる建物が点々と残っている。
また、商店街は呉服店や陶器店、染物店など味のある店が並ぶ本通り商店街や、居酒屋やバーなどが軒を連ねる朝日町通りなどがあって、こちらは昭和の雰囲気を色濃く残していた。
米子の街歩きは、思いがけない店に出会えそうで楽しい。今回はそんな米子に和菓子の老舗、つるだやを訪ねた。
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米子城跡。慶長7年(1602)、標高90mの湊山山上に四層五重の天守閣と四重櫓という2つの天守を連ねて完成した華麗な城だったが、明治期に解体された。国史跡。(写真協力:剱持雅隆) |
代を重ねる
つるだやの本店は、米子高島屋の前から真っ直ぐ西に伸びる角盤町通り沿いにある。店の南側は約4百メートルにわたって9つの寺が並ぶ寺町通りである。
大正14年(1925)、初代鶴田定蔵が、当時の淀江町から米子町に移って来て創業した。戦後、2代目鶴田芳一のときに、親交のあった初代米子市長・野坂寛治らと語らい、大山山岳会の協力なども得て大山で採れる山うどを加えた落雁「三鈷峰」を創製。淡いヒスイ色をしたこの銘菓で、"米子に、つるだやあり"と一躍名を上げた。地産を生かした、野趣のある米子銘菓の誕生であった。
現在の社長は4代目の鶴田陽介さん(昭和40年生まれ)。まず、米子とはどんな町かとうかがってみた。
「こういう古謡の文句があるんです。『逃ぎょい逃ぎょいと米子に逃げて、逃げた米子で花が咲く』。米子がどこからやって来た人でも受け入れる開放的な風土だったということです。商業の町ですから、誰にでも成功のチャンスがあったんですね。
ただ、これは見方を変えると、米子がいろいろな場所から来た人々が集まってできた街だということです。そのためか、どこか米子人というか、米子っ子としての心情に乏しいところがあります。
そういう意味もあって、今、私は毎年、夏のイベント『米子がいな祭』をお手伝いさせていただいています。祭りを通じて米子市民に一体感のようなものが生まれ、それが代を重ねるうちに、郷土愛となり、街の発展にもつながるはずだと思って。お菓子も、地域の歴史風土や文化と無縁ではありませんから」
"がいな"とは、土地の言葉で大きいとかすごいの意。「米子がいな祭」は、万灯や花火、太鼓などの催しが繰り広げられる米子の一大フェスティバルである。
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後藤家住宅。江戸時代に、藩の米や鉄を回漕する特権を与えられた回船問屋。国の重文。非公開。 |
わかっていただく努力
つるだやには、十勝産の極上小豆を皮を剥いでから製餡するという手間ひまをかけて作る品格あふれる薯蕷饅頭「甘爐」、手芒豆の餡の白さとまろやかな風味を生かした地域銘菓「白羊羮」、求肥を混ぜた餡を薄くやわらかな薄種ではさんだ半生菓子「ささ鳴き」など多くの銘菓がある。
「若い人向けの新しいお菓子ということがよく言われますが、そればかり追いかけると軸がぶれてしまうのではないか、と私は思っています。必ずしも新しい時代には新しいお菓子というのではなく、古くからのお菓子が見直されることもあります。
たとえば、栗入りの白餡の饅頭『かち栗』は、創業80周年の記念に期間限定で復刻したものですが、好評で定番商品になりました。
また、私は大学入学から30歳頃まで東京にいたのですが、戻ってきて、子どもの頃に大好きだった『レモンケーキ』が作られなくなっているのに気付き自分がもう一度食べたいと思って作ってみると、これがまた評判がよくて復刻しました。現在でも人気商品の一つです。現代人の好みに歩み寄ることも大切ですが、これまで積み重ねてきたものをわかっていただく努力も大切だと思っています。
さらに私どもでは、2代目が『三鈷峰』で地産地消の先駆けをしていますが、私も、造り酒屋の友人が地元の米でつくっている純米酒で何かできないかと考えて、生地に酒粕を煉り込んで焼き上げるカステラ「千穂の郷」を考案しました。地元の材料で地元のお客様に喜んでいただければ最高の幸せです」
つるだや
鳥取県米子市角盤町3丁目100 0859(32)3277
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白羊羹 |
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ささ鳴き |
時代を見定めながら
小さな変化を続けていく。
街の発展も、菓子屋の未来も、
そこにあると思っています。