菓子街道を歩く

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唐津「海の城下町の真ん丸の菓子」

「一乗谷 朝倉氏遺跡」。福井市の山あい、一乗谷にある戦国時代の遺跡。朝倉氏5代が103年間にわたって越前の国を支配した城下町跡。武家屋敷・寺院・町屋・職人屋敷など、町並みが復元されている。国の特別史跡・特別名勝。

「恐竜王国」へようこそ

 昨年3月、東京―金沢間の開業で大いに湧いた北陸新幹線が、今、5年後の福井駅開業に向けて、急ピッチで延伸工事を進めている。
 地元の福井も大きな期待を抱いて、様々な整備を進めているが、福井駅周辺で行っている事業の完成像がそろそろ見えてきた。
 まずは、駅に隣接してドームシアターなども備えた自然史博物館分館や多目的ホール、商業施設などが入る高層タワーがこの春に完成。駅前には路面電車やバスが発着する回廊が建設され、駅前商店街に続く道も美しく整う。
 一方、駅から徒歩数分の福井城址では、山里口御門の復元工事が追い上げに入っている。完成すれば、福井が68万石の城下町として全国屈指の都市だった往時の輝きを思い起こさせるシンボルになるはずだ。
 さらに、昨年、マスコミで大きな話題を呼んだのが「恐竜王国福井」をPRするために駅前広場に作られた巨大な恐竜のモニュメントと、駅舎を覆った恐竜イラストのラッピングだった。これは、近年大人気となっている福井県立恐竜博物館にあやかったもの。  また、大手通信電話会社のテレビCMで一躍、有名になった一乗谷朝倉氏遺跡には、昨秋、一流の味が楽しめるレストランが整備された。
 どうやら福井は大きな転換点を迎えているようだ。今回は、その街に、福井を代表する銘菓「羽二重餅」で知られる羽二重餅總本舗松岡軒を訪ねた。

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「養浩館庭園」。福井藩主松平家の別邸。江戸中期を代表する回遊式林泉庭園は四季折々に美しくその表情を変える。   「福井市グリフィス記念館」。2015年秋に開館した新名所。明治初期に来日し、福井藩の教師として活躍。後に日本を広く世界に紹介したW.E.グリフィス(1843〜1928年)の邸宅を復元した。   「福井県立恐竜博物館」。42体もの恐竜の骨格標本を始めとして復元ジオラマや映像など、恐竜に関する資料を展示する大人気の博物館。

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「永平寺」。曹洞宗の大本山。曹洞宗の開祖・道元禅師が寛元2年(1244)に開いた座禅修行の道場。広大な境内には大小70余りの伽藍が並び建つ。   「東尋坊」。荒々しい岩肌の柱状節理が延々1kmに渡って続く名勝。日本海の荒波が岸壁にくだける様子は圧巻。遊覧船に乗って、海からの観光もおすすめ。

絹のしなやかさを菓子に

 羽二重餅總本舗松岡軒は、福井駅から真っ直ぐに延びる中央大通り沿いにある。裏手には料亭などが点在する風情ある道が走り、さらにその裏手には足羽川が流れている。
「春は足羽川の土手が、延々と続く桜のトンネルになるんですよ」と、笑顔で話し始めたのは4代目当主の淡島律子さん。実は、長年連れ添った伴侶である3代目・淡島洋さんが一昨年の春に急逝、慌ただしく代表の座を引き継いだところだ。
 松岡軒は、明治38年(1905)の創業。前身は、福井特産の絹織物「羽二重」の製造で聞こえた織物業者だったが、繊維不況により転業。律子さんの義理の祖父にあたる淡島恒が十代で東京の菓子屋に入り、修業の末、暖簾分けしてもらって現在の地に『東京松岡軒福井分店』を開業したのが始まりだという。
「その創業時に、自分の家がかつて織っていた羽二重をお菓子に表現できないかと試行錯誤しながら作り上げたのが『羽二重餅』だったと聞いています。福井の誇りである羽二重織が銘菓になったと、まず地元で評判となり、またたく間に全国にも知られていきました」
 かげりのある白色、しっとりきめ細やかな肌、口の中で溶けていくような柔らかさ。羽二重餅は菓子品評会でも金賞を受賞し、松岡軒の土台を盤石なものにしていった。

心優しき当主の系譜

 ところで、大ヒット商品が生まれると、すぐに同じようなものが雨後の筍のように出てくるのが世の常。羽二重餅の場合も同様のことが起こったという。
「ところが祖父は、『それぞれの店が切磋琢磨してこの菓子をさらに良いものにしていけばいいじゃないか。羽二重餅が福井名物として世の中に広がるのは、むしろ良いこと、福井の力になる』と言っていたそうです。作り方のコツなども、聞かれれば何でも教えたようですよ」
 この熱い心意気とおおらかな人柄は、戦後2代目を継いだ義父の實さん、さらに亡夫の洋さんにもしっかり遺伝。いずれも明るく社交的で、地域の役職をいくつも務め、奉仕活動が多忙を極めて店の仕事の方が後回しになることもしばしばだったそうだ。しかし、そんな人柄が信頼を得て、事業も堅調に伸びてきた。

二つの名物

 店の奥の工場にまわって、羽二重餅作りを見学した。
 まず、原料は餅粉と砂糖、水飴だけ。35年前に洋さんが、より繊細な甘みをと砂糖を上白糖からビート糖に変えたが、それ以外は配合も昔のまま。添加物は昔も今も一切使用していない。
 餅粉を蒸し、砂糖と水飴、少量の水を加えて練り上げて薄く伸ばし、カットすれば羽二重餅の出来上がり。単純明快な菓子だけに、火加減や水加減など、肝心なところは長年のカンがモノを言う。
 そして、最後は、ひとひらずつを手に取って容器に詰めていく。これも、松岡軒の羽二重餅が、薄くデリケートであるがゆえの手作業だ。
 ところで、松岡軒には羽二重餅と並ぶ名物がもう一つある。夏限定の「手かき氷」だ。
 白山の伏流水で作った氷を、越前の打ち刃物でガリガリ、ザクザクとかき削り、自家製の餡やシロップを添えて店内で供する。順番待ちの行列と笑顔と歓声が、この店の夏景色である。

どこよりも美味しく

 さて、新たな当主を迎えて、この店はこれからどう変わっていくのだろうか。
「羽二重餅は福井で、この松岡軒で生まれた銘菓です。ですから、やはり、どこよりも薄く、どこよりもなめらかで、優しい甘さだと言っていただけるように、この味を守り、次の代に伝えていくことが私の義務だと思っています。
 その上で、女性ならではのアイデアも菓子に取り入れていきたいし、できればいつか新しい菓子を創ることができたら、理想です」
 織姫と機織りの杼をデザインした包装紙を開いて、羽二重餅をいただいた。白い色は雪のように温かみがあり、柔らかさは絹のようにコシがある。そして、清廉な味がした。


羽二重餅總本舗松岡軒 Matsuokaken

福井市中央3-5-19 TEL 0776(22)4400

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「 どこよりも薄く、
なめらかで、優しい甘さ。
それが松岡軒の羽二重餅、
私どもの誇りです。」

淡島律子


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