ホーム > 菓子街道を歩く 東京 上野 No.207
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東京国立博物館。日本を中心に東洋の国々の美術品や考古遺物などを保存、公開している。 本館、平成館、法隆寺宝物館など6館があり、写真は表慶館。 |
朝から賑わう東京・上野の「うさぎや」店頭。「どらやきは本日中にお召し上がりください」と、店員のお願いの声が聞こえる。ちょっとびっくりした顔をしたり、納得したようにうなずいたりするお客たち。うさぎやのどらやきは、できたてが一番おいしいですよと、店員は自信をもってお勧めしているのだ。
うさぎやのどらやきの特徴、やわらかな粒餡に使っているのは、北海道・十勝産の小豆。長年の付き合いの卸業者が、豆を選別して納入する。それを職人が、さらに選り分け、朝6時半から餡を焚き始める。その餡を包むのが、サクッとした食感に焼き上げたレンゲの蜂蜜入りの皮。店の地下の工場で作り、できたそばから店頭に出して、夕方までには売り終える。
作るのは、十数人の職人たち、売るのは5、6人の店員。
「(今日でなく)明日食べられるのは悔しい、と言い始めたら、うちの店員さんになったなと思います」と話すのは、4代目当主の谷口拓也さん(1963年生まれ)だ。
25歳から10年間は工場で働いて店の伝統の技を身につけ、社長になって15年。うさぎ年生まれの56歳は、本店1店舗にお客様に買いに来ていただくことで、どらやきの「生もの」のおいしさを守っている。
あえて店舗は増やさない。どらやきと並ぶもう一つの看板、創業者の名を冠した「喜作最中」や羊羹、上生菓子、焼き菓子などを揃えて伝統的な和菓子屋の姿を保っている。
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国立西洋美術館。昭和34年(1959)の開館。 平成28年(2016)に、本館の建物が「ル・コルビュジエの建築作品」の構成資産の一つとして世界遺産に登録された。 |
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西郷隆盛の銅像。大日本帝国憲法発布に伴って西郷の「逆賊」の汚名が解かれ、明治31年に建立された。 | 上野の山は休日をゆったりと過ごすにも、もってこい。背後の建物は旧東京音楽学校奏楽堂。 |
対照的にちょっと前衛的な試みをしているのが、本店から徒歩数分のところにおいしい餡のデザートを出したいと2015年に開いた「うさぎやCAFÉ」だ。BGMはハワイアン、片隅に「ハワイウォーター」の給水器、壁には抽象画が飾られている。
メニューを見れば、「うさどらフレンチ焼き」や「うさ志る古フロマージュ」、「日本酒うさ氷」…どんな味がするか、想像力を刺激される。開店時間の午前9時から10分間だけ供される「うさパンケーキ」というのもある。
一見、突拍子もない素材の組み合わせに見えるメニューにも、由来と根拠がある。6年前、ハワイの日本領事館に招かれて、どらやきと日本茶でもてなすイベントに参加した時に出合ったのが、現地の天然水「ハワイウォーター」。超軟水で、口当たりが素直、のど越しまろやか。その場でほれ込み、カフェのコーヒーや日本茶、「うさ氷」の素材に使っている。
そのハワイで日系人から勧められたのが、どらやきを使ったフレンチトーストだ。「あんこが入ったままやるんだよ」と言われてやってみると、バターと餡の相性が抜群だった。
温めたどらやき用の餡と最中の皮をセットにして、餡を皮にのせたり、皮を餡に割り入れてスプーンで食べたりするのが、「うさ志る古」。その餡にさらにチーズを加えると「うさ志る古フロマージュ」。こちらは、谷口さんが卒業旅行で行ったブラジルの日系人から教わった、羊羹とチーズを一緒に食べるやり方をアレンジしたもの。チーズの塩味が餡の甘みを一層引き立てる。
カフェ専用の煎茶、ほうじ茶、玄米茶は、ハワイのイベントで出会った狭山茶の製造・加工元にブレンドしてもらい、「うさ餡みつ」に使う寒天は、谷口さん好みのやわらかめのものを卸元に発注している。
というわけで、「うさぎやCAFÉ」のメニューは、いわば谷口さんの幅広い人脈と活動、それに遊び心の産物だ。工場の職人たちも、普段はやらないことに取り組んで経験を積む。伝統と革新が、本店とカフェ、二つの店の異なる性格を際立たせ、両立させている。
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本店の軒に飾られている「うさぎ」は、先代がベネチアで 注文したガラス製。 |
うさぎやから歩いて5分の上野の山。入口には明治以来変わらず高村光雲作の西郷隆盛像がそびえているが、一帯は今や歴史と美術と科学の粋が一堂に会する一大「文化エリア」だ。
20世紀を代表する建築家の一人、ル・コルビュジエが設計した世界遺産の国立西洋美術館。日本と東洋の文化財を収集し、国宝・重文数知れずの東京国立博物館。シロナガスクジラの原寸大模型が目を引く国立科学博物館。ジャイアントパンダが生まれて育つ上野動物園。オペラやバレエの公演ができる音楽の殿堂・東京文化会館。いつもどこかに入場待ちの行列ができている。
ほかにも東京都美術館、下町風俗資料館、東京藝術大学美術館……。まだまだあるが数えきれない。この上野の山を「お宝鑑定団」で丸ごと評価したら、一体いくらになるのだろう。文字通り、上野の山は宝の山だ。
これらの文化施設が連携し、上野の潜在力を一層高めようとの構想が、東京オリンピックを前に進んでいる。文化庁が旗振り役の「上野文化の杜」構想で、アートディレクター・日比野克彦氏を総合プロデューサーに、周辺の町を含めて支えあい社会を目指す「UENOYES」プロジェクトを展開、文化施設共通入場券を発行している。
リニューアルされた旧東京音楽学校奏楽堂や国際子ども図書館。新たに設置された屋外彫刻。施設が軒を連ねる道端におしゃれなカフェもできて変わりつつある上野の山は、銅像の西郷さんの目に、どう映っているだろう。
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東京都台東区上野1-10-10
TEL :03-3831-6195
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どらやきと喜作最中 | うさぎまんじゅう |
職人が丁寧に、真摯に
炊き上げているあんこを、
最高の状態でお客さまに
召し上がっていただきたい。
その想いだけです。