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ホーム > お・い・し・い・エッセイ 活弁エッセイ 山崎バニラ(2)「活動写真」の歴史、語ります。 No.183

活弁エッセイ(2)「活動写真」の歴史、語ります。

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 「活動写真」弁士の山崎バニラです。
 活動写真……そう、かつて映画は活動写真と呼ばれておりました。つまり、「わぉ! 写真が動いた!」というわけですね。では、そもそも映画・活動写真はどのように始まったのでしょうか。

 時は1891年、音に名高い発明王トーマス・エジソンが発明したのがキネトスコープであります。といっても、見ためはただのタンス。一人ずつ覗き込む方式で、人がくしゃみをする様子を映した『くしゃみの記録』など数秒の映像が流れていました。 
 続いて1895年、フランスのリュミエール兄弟が発明したのがシネマトグラフ。これによって、一度にたくさんの人が映像を見られるようになりました。大きなスクリーンで『列車の到着』を上映すると、実際の列車と勘違い、驚いて逃げる観客もいたとかいないとか。

 さて、この『くしゃみの記録』や『列車の到着』は記録映像。発明家自身が撮影した、いわゆるドキュメンタリー映像でした。しかし、1902年封切りの『月世界旅行』は違いました。監督、主演、美術と、すべてを担当したのはフランスの奇術師、ジョルジュ・メリエス。映像を使ってマジックをしようと試みて、特撮を取り入れたのが画期的でした。
 この作品は世界初のSF映画であり、また映画に初めて宇宙人が登場していることでも有名です。しかも上映時間1,2分の作品が主流だった時代に14分間という超大作。さらにカラー版も同時に封切られました。なんと人が手作業でフィルム1コマずつに色を塗っていたのでした。
 この『月世界旅行』の染色版はもう存在しないと長らく考えられていましたが、1993年にスペインで発見され、修復やデジタル技術の進歩のお蔭で2010年にカラー修復版が完成しました。ですから染色版は無声映画全盛時代の人々と、現代の我々しか見られないという、作品同様ロマンあふれる運命をたどっております。修復の様子はドキュメンタリー映画『メリエスの素晴らしき映画魔術』(2011/フランス)で詳しく紹介されていますので機会がありましたらご覧になってくださいね。
 ちなみに、当時のフランスにはまだ著作権の制度がなかったので、『月世界旅行』のフィルムはすぐに海賊版が作られ、世界中で上映されました。ですから今でも月にロケットがささったシーンは有名なのに、メリエス自身は製作費の3分の1ほどしか回収できなかったようです。さらに同じような作品が次々に発表され、メリエスは時代に取り残され、ついには撮影所を閉鎖します。晩年は駅の売店で働くのですが、その頃のメリエスを描いたのが2011年に公開されたマーティン・スコセッシ監督の3D映画『ヒューゴの不思議な発明』でした。

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 ところで、無声映画は今でも新作が作られています。アカデミー賞5部門受賞で注目を集めた『アーティスト』(2011/フランス)が記憶に新しいですね。また、ちょうど今全国で順次公開されている『ブランカニエベス』(2012/スペイン、フランス)もとてもオススメです。タイトルはスペイン語で、「白雪姫」の意味。闘牛士の父とフラメンコダンサーの母との間に生まれた少女が「こびと闘牛士団」に拾われ、見せ物巡業の旅に出るという波瀾万丈の物語。無声映画ですので人の音声はないのですが、映像と音楽、魅力的なヒロインと物語の力で一瞬たりとも飽きさせません。

 でも、無声映画の醍醐味はやはり活弁付き上映で見ることだと、私は思っています。ホームシアターの普及や娯楽の多様化で映画館離れが心配される昨今ではありますが、だからこそ映画館でしか味わえない弁士や生演奏付きの映画鑑賞には新鮮な魅力と可能性があるんじゃないかと。
 無声映画全盛の時代のように、映画館の客席で「おせんにキャラメル」が売られる日も近い?! せめて日本の時
代劇は、ポップコーンじゃなくて、日本のお菓子をいただきながら楽しみたいものですよね。

山崎バニラ(やまざき ばにら)

活弁士(活動写真弁士)。1978年、宮城県白石市生まれ。東京育ち。清泉女子大学文学部スペイン語スペイン文学科卒業。「ヘリウムボイス」と呼ぶ独特の声と、大正琴やピアノを弾き語る独自の芸風を確立し、全国で活弁ライブを開催。声優としてもアニメ『ドラえもん』ジャイ子役や、子供向けお笑い番組『ワラッチャオ!』(NHK-BSプレミアム)キャサリン役など出演作多数。NHK-BS1『サッカープラネット』にプレゼンターとして出演中。著書に『活弁士、山崎バニラ』(エイ出版)。新しい趣味はフラメンコ。上級クラスにいる母に習いながら、ダンスのレッスンに通っています。