見慣れた虎屋の包装紙を開いて、一瞬、目を疑った。これが最中の箱? どう見てもゴルフボールの箱そのものである。
お菓子であるとわかっていても、ゴルフ最中「ホールインワン」のパッケージには驚かされる。箱もそうだが、なかに並んでいる紅白の最中がまた、ゴルフボールそっくりなのだ。中身は紅が白餡、白がこし餡。
歴史のある古い土地こそ新しい発想を生む、とはよく言われること。老舗虎屋にして、このモダンな意匠あり、ということがいえよう。
虎屋の祖先は、御所ゆかりの菓子司であったために、奈良からの遷都に伴なって京都へ移り、平安、鎌倉、室町の各時代、京都で菓子屋であったと伝えられている。だが、虎屋では、口伝は口伝として、慶長五年 ( 1600 ) の記録に登場する黒川円仲を中興の祖とし、初代に数えている。現在のご当主、黒川光博氏は十七代目。東京に店を出したのは、御所が京都から東京に移った明治初期のことだ。
ところで、「ホールインワン」が最近創案されたお菓子なら、驚いた、おもしろい、おいしい、で終わってしまう。それだけではなく、もうひとつズシンとくるのは、このお菓子が大正十五年 ( 1926 ) の記録に残されていることである。バブル時代のゴルフブームなどにあやかったのとはわけがちがう。日本のゴルフの夜明けの時代に、早くもゴルフをお菓子に取り入れた遊び心は、さすがである。
菓子の入った箱のデザインは、何度か変わったようだが、いま用いられている箱も、昭和初期のモダンな雰囲気を伝えていて美しい。食べるゴルフボール発見ここのところ、会う人ごとに「ね、虎屋のホールインワンって最中知ってる?」と吹聴して歩いている。
文/大森 周
写真/太田耕治
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