はがき大のお菓子の箱を開けると、「まいどはや」が10個、2段重ねで詰められている。もともと12個でぴったりの箱だから、一隅にお菓子2個分の空きがある。そこに、かわいい土人形が寝ていた。昔の丁稚小僧をかたどったのだろうか、紺の前かけをかけた男の子。郷土玩具、とやま土人形の土鈴である。
土人形の前かけには白く、「まいどはや」という文字が入っている。
越中方言の「まいどはや」は、相手への思いやりを込めたていねいな挨拶の言葉だという。それをそのままお菓子の名前にした。お菓子屋さんが土人形に、「このお菓子をお買い上げいただいて、まいどはや」と挨拶させているのだ。製造元は月世界本舗。
月世界本舗は、富山の銘菓として知られる「月世界」を創案し、このお菓子とともに歩んできたお店である。明治30年 ( 1897 ) の創業で、現在の当主吉田栄一さんが3代目。「月世界」と書けば、「げっせかい」と読んでしまいそうだが、「つきせかい」と読む。明治30年ころに月のイメージをお菓子にした吉田栄吉という創業者は、なんとおしゃれなお菓子屋さんではないか。「まいどはや」は、富山置県100周年を記念して、昭和58年 ( 1983 ) に創案した。鶏卵と砂糖を主原料に、柚の香りをきかせたマシュマロ風の、やさしいお菓子である。月世界本舗としては、創業以来、これが「月世界」に次ぐ2つ目の新製品だというのだから、驚く。
月世界本舗のモットーは、「郷土にこだわった商売」。富山の心を全国に届けようと、お菓子を発送する際に、かつて富山の薬屋さんが景品に使っていた紙風船を添えていて、懐かしがられている。
文/大森 周
写真/太田耕治
富山市上本町8-6
TEL 076 ( 421 ) 2398