銘菓の装い

ホーム > 銘菓の装い No.132 特製五三焼カステラ

特製五三焼カステラ

異国情緒の粋

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 福砂屋は、老舗のお菓子屋さんであるというだけでなく、長崎を代表する名所でもある。
 長崎の町には、異国情緒が深くしみこんでいる。だが、長崎で実際に見られるものには、幕末から明治にかけての旧跡が多く、もっと古くからの異国との交流を伝える名所は案外に少ない。
 福砂屋は、江戸初期の寛永元年(1624)、ポルトガル人にカステラ作りを学んで創業し、長崎の中心街で延々と手作りのカステラを焼き続けてきた。この店に比較できる歴史をもつところは、長崎でも、崇福寺や興福寺といった唐寺(からでら)だけではないだろうか。福砂屋が長崎きっての名所だと思うゆえんである。
 唐人屋敷跡や花月への途次、福砂屋の軒先の形のよい行燈(あんどん)を見上げ、カステラの匂う店内に飾られた長崎ビードロなどを見ると、つくづく長崎にいる実感に包まれる。
 福砂屋の「特製五三焼カステラ」を開ける。包装紙はごく薄いえんじの紙に、表に紅殻色のベタ、裏に紅殻でランプや昔の福砂屋のラベルなどを散らした絵を印刷したもの。この包装を解くと、掛け紙は茶の熨斗に、グレーの線だけで表した蝙蝠(こうもり)の絵。蝙蝠は、中国で慶事、幸運を表すことにちなむ、福砂屋の登録商標である。箱の蓋はアイボリー、二本のカステラを詰めた箱の外側は紅殻。カステラに直接巻いた厚紙の包装も、表はアイボリー、裏が紅殻、少し折り返して裏の色を見せているところが、おしゃれだ。
   全体に、紅殻とアイボリーを基調とするこのパッケージは、どこかに異国情緒をにじませたシックな装いである。
 「五三焼」の「五三」の意味には定説がない。このカステラの特色は、砂糖と卵を多くし、小麦粉を少なめにしていること。甘さにコクがあり、ざらめ糖もシャリシャリと、深みのある、大人のおいしさである。

 文/大森 周

福砂屋本店

長崎市船大工町3-1
TEL 095(821)2938