今年の3月31日の新聞に、「有珠と共生願い道産子踏ん張る」という見出しで、有珠山噴火から一年後の現状が報じられていた。今、洞爺湖温泉では、お客さんが噴火前の8割くらいまで戻ったという嬉しい話題がある反面、いまだに1370人もの方が仮設住宅暮らしを続けているという、つらい状況もある。そんななか、洞爺湖温泉の人々は、さまざまに知恵をしぼり、再建に取り組んでいる。
その洞爺湖温泉で生まれ、全国に知られた銘菓に、「わかさいも」がある。いもとはいっても、いもは使わず、主原料に地元特産の大福豆を用い、いもの風味を出したお菓子だ。さつまいもの繊維を感じさせるために、北海道らしく昆布の筋を入れたところなど、出色の工夫である。表面につけた焼き色もみごと。
創案者は、わかさいも本舗の創業者でもある若狭函寿。菓子一筋に生きて、「わかさいも」をヒットさせた立志伝中の人物である。彼はまた、郷土を洞爺湖をこよなく愛し、「私は洞爺湖に生かされた」という名言を残した。
さて、その「わかさいも」の装い。包装紙は、北海道の道南地方のおおまかなイラストマップを、札幌出身のおおば比呂司が描いたものだ。おおばさんといえば、かつて超売れっ子だった漫画家。さすがに洋風で開放的な北海道の風土感を出している。
包装紙を取ると、「天下一品 わかさいも」という文字を中央に入れた、洞爺湖の絵を印刷した箱である。これもおおば比呂司。文字の左下に大きく描かれた、「わかさいも」の行灯を下げた荷車の屋台を引く人物は、おおばさん得意のキャラクターだが、どこか創業者の面影を連想させるところもある。
箱をあけ、真空パックの袋を切って、まず一つ。「これはうまい!」と思わず唸ってしまい、「わかさいも」の味には初手から降参であった。
文/大森 周
写真/太田耕治
北海道虻田郡虻田町
字洞爺湖温泉町108番地
TEL 0142(75)3111