奈良県桜井市の白玉屋榮壽は、まことに古都大和にふさわしいお菓子の老舗である。三輪山を御神体とする大神神社の大鳥居前に、弘化元年(1844)に創業。今日までそのえにしを守って本拠地を移さず、また商品は初代が考案した最中の銘菓「みむろ」のみに徹して名物の名を輝かしてきた。
奈良の旧市街から三輪山までの道は、山の辺の道と呼ばれ、日本の歴史に登場する最も古い道である。おそらく、山の辺の道は、三輪山への道であったのだろう。
三輪山は、古代から山そのものが神の鎮まるところとしてあがめられてきた。そのため、山を祀る大神神社に神殿はなく、拝殿の奥にある三ツ鳥居を通して、直接山を拝んできたのである。万葉集などでは「三諸山」と詠まれることが多かった。白玉屋榮壽の銘菓「みむろ」の名は、そういう、三輪山の雅称にちなんだものである。
「みむろ」の包装紙は、正倉院の鳳凰その他の紋様を染め抜いた渋いデザインだ。実は、「みむろ」には菓子そのものに小型と大型があるが、50個以上の箱には、越前和紙の一枚漉きを包装に用いている。小豆色の地に白を重ね漉きして、紋様を小豆色で抜いた見事なものだ。写真の30個入りの場合は、デザインは同じだが、洋紙に印刷したものを使っている。
包装を解くと、三輪山と白玉屋のにぎわいを大和絵風に描いた、美しく落ち着いた掛け紙。箱は大和の古地図をあしらった濃緑色の、これも渋いものであった。「創業弘化」の角印の透かしが入る薄紙を開いて、いよいよ「みむろ」にたどり着く。
一口、最中のがさがさした感じがまったくなく、皮とあんがしっくりとなじみ、皮は口のなかでふわりと溶けた。特産大和大納言小豆と大和のお米で作られているという「みむろ」は、じつに三輪山の恵みの味である。
文/大森 周
写真/太田耕治
奈良県桜井市大字三輪497
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