黒地の包装紙いっぱいに、雄渾な書体で「黒」という文字が、白く染め抜かれている。その白文字のまわりを「森長の」という赤い文字と、金泥の「黒おこし」の文字が躍って、華やかさを添えていた。
これは本格的だぞ、という予感がある。
包装紙をはずしてみると、薄いベージュの箱の表面には、思いがけず、渋い朱一色で印刷された美人の顔。すてきな帽子をかぶったこの美人、どうも波の間から生まれたビーナスらしい。おこしの精か。
上下が開く箱には、4袋のおこしが詰まっていた。1袋にふた口くらいのおこしが6個ずつ。さっそくいただいてみると、ふっくらとした米の食感と水飴の甘さ、黒砂糖の味が、口のなかで混じり合って、いいようもなくおいしく、なつかしい。時折、黒砂糖の粒にあたると嬉しくなる。なんというのか、お菓子を食べているというより、主食を食べているような安心感がどこかにある。
日本のお菓子だ、と思う。
この「黒おこし」を作っている諫早市の菓秀苑森長は、寛政5年(1793)創業という老舗。「黒おこし」は創業以来の商品で、米どころ諫早の菓子を代表してきた。
蒸した米を乾燥させ、3カ月から1年寝かせたあと鉄鍋で炒り、その乾米に沸かした水飴と黒砂糖を混ぜ合わせる。木枠に伸ばして冷やせば、「黒おこし」のできあがり。水分を飛ばしすぎないよう、しっとりと仕上げる。黒砂糖は、鹿児島や沖縄から来る板状のものを、機械を使わず、手作業で砕く。これもおいしさの秘密のひとつだ。
砂糖を用いた菓子を南蛮菓子というそうだが、米を蒸して乾燥させるのは中国の発想。南蛮と中国の融合が「黒おこし」なら、やっぱりこれは日本のお菓子である。融合は、日本の得意芸だからだ。
文/大森 周
写真/太田耕治
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