私ごとで恐縮だが、筆者は若い頃、毎夏、館山へ海水浴に行っていた。当時、『ひまわり』や『それいゆ』で有名な画家の中原淳一さんが館山で療養生活をされていたが、淳一さんの息子さんと友だちだった筆者は、彼のでかい外車に乗せてもらって出かけたのである。
千葉県人には、男女を問わず、明るくて気風のよい人が多い。夏ごとにお世話になった民宿の奥さんの、息子でも迎えるようなカラッとした温かさが、忘れられない思い出になっている。今回の房洋堂が館山のお菓子屋さんと知って、なつかしさのあまり昔話になった。
房洋堂は大正12年に材木商だった初代が菓子屋に転じたのが起こりで、名物饅頭やびわ羊羮などを製造していた。
現在の社長は、三代目の高橋弘之さん(昭和14年生まれ)。早稲田大学を卒業後、不二家に勤め、昭和52年に房洋堂に戻り、社長に就任した。主力商品の「花菜っ娘」の創製をはじめ房洋堂を盛んにしたのは、この人である。
高橋さんは、「千葉の農産物の質が上がり、それを素材に私どもがよい菓子を作るのが理想」と語っている。
「花菜っ娘」は、房総の風物詩となっている菜の花にちなんだお菓子を、という鴨川市営フラワーセンターの要望で作られた。当初は蒸し饅頭だったが、今は手亡豆に牛乳とバターを加えた餡を、アルミホイルで巻いて焼いたホイルケーキである。ホイルケーキの利点は、バターなどをたっぷり使っても形くずれしないことと、約30日間と、日持ちがすることだという。
14個入りは、包み紙からして、古代風の紋様を白抜きにした菜の花色である。「千葉の豊かな恵み 人に思いをつたえる時に」という、房洋堂のキャッチコピーが刷り込んである。
包装を解くと、箱は、菜の花の花びらの輪の中に、かわいらしい女の子をあしらったもの。この子は個包みにも登場する。個包みは袋になっているから、ちぎって、アルミホイルのままのお菓子を取り出す。ホイルを開くときは、お菓子がホイルにくっつかないよう、そっと開くとよい。
さっそくいただいてみると、甘すぎず、くどくなく、口溶けのよい、実に千葉県人に接するような味であった。
文/大森 周
写真/太田耕治
千葉県館山市安布里780
TEL 0470(23)5111