銘菓の装い

ホーム > 銘菓の装い No.151 羽二重餅

羽二重餅(はぶたえもち)

お菓子に絹の風合いを

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 福井は羽二重の産地として知られた。民芸運動の指導者柳宗悦も、こう書いている。
「越前の福井は松平氏の城下。また永平寺の国。ここの名は久しくその『羽二重』を以て聞えました」(『手仕事の日本』)
 羽二重が福井で織られるようになったのは、明治20年頃のことである。30年代には機械を導入して大規模となり、海外輸出も盛んに行われるようになった。福井の銘菓「羽二重餅」で有名な松岡軒も、前身は「丸十印奉書紬(羽二重)」の製造で聞こえた絹重(淡島重兵衛)という織物業者である。
 その後、淡島恒が菓子製造業を開くにあたって、菓銘に先代の家業を伝えようとしたのが、「羽二重餅」の名の由来である。
「羽二重餅」は明治38年の菓子品評会で金賞を受賞。同時に、この時代に福井の羽二重生産がピークを迎えたため、「羽二重餅」は贈答品として空前の売れゆきをみせたという。現在、当主は4代目の淡島洋(58歳)さんである。
 さて、「羽二重餅」32枚入りの包装を解いてみよう。まず、松の枝先を大胆に組み合わせたシルエットを金泥で刷った包装紙。松は松岡軒の「松」であろう。
 それを解くと、菓子箱はさらに、モスグリーンの絵と文字が刷られた白い包装紙で包まれていた。
 中央に機織りに使う杼(ひ)を縦に描き、その中に「福井名物 羽二重餅」の文字。杼の上には「松」に「岡」の字を組み合わせたシンボルマーク。杼に寄り添って立つ古代衣装の女性は、羽二重の織姫であるという。この包装紙は創業以来使われているもので、非常に古風な趣のあるものだ。
 その白包装のなかから、杉板の箱を模した、まことに品のよい薄い箱が出てきた。短冊形の「羽二重餅」32枚が、4枚ずつ区分けして入っている。1枚を楊枝で刺して持ち上げると、しなりと垂れるほど、柔らかい。
 口に入れた時の、求肥のなめらかさ、砂糖と水飴の上品なほの甘さ。羽二重の風合いをお菓子にしたものとはこれかと、つくづく感嘆する食感だった。

 文/大森 周
写真/太田耕治

羽二重餅總本舗松岡軒

福井市中央3−5−19
TEL 0776(22)4400
FAX 0776(27)4400