大山(だいせん)という山は、西の米子側には、伯耆富士の名にふさわしい端整な独立峰の姿を見せるが、北の海岸線にまわると、うって変わって、山頂に恐ろしいまでの猛々しい岩肌を現わし、旅人を驚かす。
かくも変化に富んだ山容に、信仰の山としての歴史、植物や昆虫の宝庫という面も加えれば、大山はまさに山陰路の華である。今回は、その大山のふもとの町・米子市から、すてきなお菓子が届いた。銘菓「三鈷峰」である。米子市のお菓子屋さん「つるだや」の製品。
「つるだや」は、大正15年の創業。現在は4代目で、若い鶴田陽介さん(昭和40年生まれ)が社長である。
「三鈷峰」は2代目社長(現会長)の鶴田芳一さんが、昭和29年に創製した。この土地ならではのお菓子を作るべく、当時の米子市長だった野坂寛治氏や大山山岳会の協力を得て完成、発売したものという。お菓子作りに山岳会が参加したというのは、珍しい逸話だ。菓名も、弥山、剣ガ峰などとともに大山の主稜をなす一峰で、古来霊場として崇められている三鈷峰からきている。
製法は、毎年4、5月頃に大山で採れる天然の山うどを塩漬けで保存しておき、それを蜜で炊いて落雁に混ぜ込むというものだ。
いただいた「三鈷峰」、包装にも雅致があった。まず包装したお菓子を杉板に似せた発泡スチロールの板(かつては本物の杉板を用いた)で両側からはさみ、褐色の紙紐で結んである。板の表面には山うどの絵が刷り込まれているが、これが野趣があってよい。うどの絵と、上にのせた「三鈷峰」の文字は、先にふれた野坂寛治氏のもの。
包装紙は、大山の登山図であった。三鈷峰の位置もこの地図でわかる。包装を解くと現れるパラフィン紙に包まれた落雁は、17・3センチ×8・5センチの長方形で、薄緑の色がまことに美しい。一片を口に入れてみると、さっくりと溶ける甘みのなかに、山うどのほのかな香りと、かすかな苦みが感じられた。
大山の神々しい姿と春の息吹のなかへ、思わず心が飛んでゆく。「三鈷峰」はそんな、ほんとうに風土の魅力を生かしたお菓子だ。
文/大森 周
写真/太田耕治
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