銘菓の装い

ホーム > 銘菓の装い No.166 とこなつ

とこなつ

万葉の雪

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 高岡の町歩きはおすすめである。鋳物を特産とした高岡には、大勢の鋳物職人が住んでいた。その鋳物職人の工房と住まいであった千本格子の家並みが、金屋町に今も静かなたたずまいをみせている。 
 高岡商人の繁栄を伝える、土蔵造りや明治・大正の洋風の建物が立ち並ぶ木舟町の通りも見事である。
「山町筋」と呼ばれており、平成12年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。毎年5月1日には国の有形・無形文化財である7基の御車山も曳きまわされる。
 こういう高岡の町が生まれたのは、加賀藩の2代藩主前田利長が隠居後、ここに一時城を築き、京都風の町づくりを行って以来である。城は廃止されたが、その後も前田家に庇護され、商工業の町として栄えた。
 しかし、高岡はさらに古い歴史を誇りとしている。市内北部に当たる古い湊町・伏木は、古代には国府や国分寺が置かれ、越中の政治・文化の中心であったところだ。万葉歌人大伴家持は天平18年(746)、28歳の時に越中守に任ぜられ、ここに赴任した。家持に、立山を詠んだ次のような歌がある。

 立山にふりおける雪をとこなつに見れども飽かず神からならし

 今回、高岡を代表する銘菓として紹介する大野屋の「とこなつ」は、この歌にちなんで作られたものだ。
 大野屋は、高岡市木舟町にあって、天保9年(1838)創業という老舗だ。祖先大門屋は醤油の醸造業であったが、大門屋吉四郎の代に菓子屋に転じた。吉四郎を初代として、のちに大野姓を名乗り、現在の当主は9代目の大野隆一さん(昭和23年生まれ)である。
 「とこなつ」は明治末から大正初期の創案。精選した備中白小豆餡を求肥でくるみ、和三盆糖をふりかけた小ぶりなお菓子だ。和三盆糖は家持の歌の雪に見立てたものであるとか。甘さは上品そのものだが、後口にほのかに蜜のような味の余韻が残る。
 届いた24個入りの菓子箱。包装紙は両面印刷の凝ったもので、表は特色に金粉のような散らし入り、裏は一色である。四季で使い分け、春は桜色(裏黄緑)、夏は水色(裏薄紫)、秋は黄色(裏柿色)、冬は茶消し炭色(裏赤)。包装紙を解くと、掛け紙は上質な紙に王朝色紙ふうのデザインで、控え目に「とこなつ」のロゴが入っていた。
 箱をあけるとまた箱。というのは、24個入りには12個入りの箱が2個収められている。それぞれの箱を和紙風の袋で密封しているのが、丁寧である。
 大野屋の「とこなつ」、万葉にちなむ菓名のごとく、味はもとより、一箱のもてなし方に至るまで、まことに風流であった。

文/大森 周
写真/太田耕治

大野屋

富山県高岡市木船町12
0766(25)0215
http://www.ohno-ya.jp/