東京上野に一日中、客足の絶えない菓子屋がある。うさぎや。日本一とも噂される「どらやき」が名物だ。
大きさは直径約10センチ。丸い生地がおおらかな表情をしているのは、実は職人の掌の形だから。うさぎやのどらやきは、皮の周辺部だけを掌で一瞬押さえ、餡を包んでいるのだ。
きめ細やかでハリのある皮と、小豆の一粒一粒が輝く、やわらかな粒餡。頬張れば、二つの美味が別々に押し寄せ、やがて喉の奥で一つになる。この特別なおいしさこそが、うさぎやが時をかけて研ぎ澄ましてきたものだ。
客足が絶えないから、いつも焼き立て、いつも出来立て。今日中にお召し上がりください、と手渡されるどらやきだが、早いにこしたことはない。その場で封を開ける人々の笑顔が、この店の幸せを象徴している。
東京都台東区上野1−10−10
TEL 03(3831)6195
大正2 年(1913)の創業。ここ上野で100 年余、暖簾を揚げてきた。店名は、初代・谷口喜作が卯年生まれであることに由来する。