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菓子屋のAnother Work(22) No.211

白玉屋榮壽は弘化元年(1844)に奈良・三輪山の山裾に創業、およそ180年にわたり和菓子屋を営んで参りました。三輪山は山そのものがご神体で、中腹に日本最古の神社・大神(おおみわ)神社が鎮座します。当店は、そのお社の大鳥居の脇で、ただ一つの商品、「名物みむろ」を作り続けてきました。
名物みむろは、漉し餡に少量の粒餡を合わせた「鹿の子餡」をはさんだ最中で、奈良の名産である大和大納言小豆を使い、昔ながらの製法で作っております。この小豆は、皮が薄く、しかも弾力があって割れにくく、風味が豊かなのです。ところが、平成に入った頃から作付けが減り続けて、漉し餡の小豆は北海道産が中心に。さらに近年は、粒餡に使う小豆も奈良県産の確保が難しくなってきました。
そこで2018年の11月1日、小豆の収穫期に合わせて、全国紙4紙の奈良県版に広告を出しました。
「小豆買います。貴方がお作りになられた小豆をお譲りいただけませんか」
その日からしばらくは、電話が鳴りやみませんでした。「JAの規格外の小豆でもいいですか」「少量でも買うてくれますか」。もちろんです、と答えると、農家さんが次々に小豆を持って来店されました。そして、「来年はもっとようけ作るわ」と笑顔で帰られるのです。さらには、「自分の育てた小豆が『名物みむろ』になるのが誇らしい」といったお声もたくさんいただきました。
この反響を受けて、翌年は作付け期の6月1日に再び広告を出しました。今度の文面は「小豆をお作りいただけませんか。種小豆は提供させていただきます」としました。以来、毎年6月と11月の広告を続け、約30軒の農家さんとお付き合いをしています。
昨年は広告をきっかけに小豆栽培を始め、納品された、デイサービス施設に通う高齢者の方々から、「達成感を感じた。社会参加できて嬉しい」という感想が届いて感激しました。また、なんと当社の社員が自発的にローテーションを組んで小豆を作り始めました。
原料調達のための小さな広告は、多くの余得も運んでくれているようです。
石河敏正(白玉屋榮壽社長)