日本をはじめとした東アジアでは年賀切手の発行が盛んですが、欧米ではクリスマス切手が続々と登場しています。その中で、数多くの菓子がクリスマスの大切な食として、様々な意匠に用いられてきました。
鶏卵素麺は、わが国では茶道に主菓子として使用される伝統菓子ですが、ポルトガルでは黄金の輝きをもつクリスマスケーキの飾りとして大切な役割を担っています。
さて、今回はバースデーケーキをテーマとした傑作切手、しかも世界初の菓子切手の紹介です。
1949年にオーストリアが発行した児童保護基金切手「幸せな子どもの情景」4種の切手のうちの1枚「子どもとバースデーケーキ」が、菓子切手の最初とされています。
ケーキの上には1本のローソク、子どもの手にはしっかり握られた小さな匙。「さあ、ローソクを消してケーキをどうぞ」という声が聞こえてくるような光景です。
オーストリアでは華やかな宮廷の歴史により、様々な芸術文化、生活文化が花開きました。首都ウィーンは芸術の都と言われ、カフェ文化が今なお街の中に息づいています。オーストリア各地にも様々な菓子が存在し、とりわけウィーンではザッハートルテをはじめとする数多くの銘菓が楽しまれています。
チョコレートケーキであるザッハートルテは、約200年前のウィーン会議の折に発案され、ウィーン菓子の代名詞となっている菓子です。この切手に描かれているバースデーケーキも、形状や色合いからザッハートルテをモチーフとしたものと見受けられます。
第二次世界大戦により悲哀を味わったオーストリアですが、菓子という生活文化、凹版印刷切手という芸術文化のいずれにもあふれる誇りと自信が、すばらしい菓子切手の傑作を生み出したのです。
村岡安廣