お菓子の素 よもやま噺

ホーム > お菓子の素 よもやま噺(その四)No.161 続砂糖 砂糖の世界

続砂糖 砂糖の世界

いったい、砂糖の何が人を魅了するのでしょう。
ともあれ人類は大昔から甘味を探し続け、果物や蜂蜜、植物の根や茎、そして木の幹など
さまざまなものから糖を取り出し、味わってきました。

甘そうに思えないものに砂糖がたくさん含まれているのは不思議なことです。

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 甘味は、ほとんどの人に、年齢に関係なく好まれています。これは、私たちの先祖(樹上生活をしていた哺乳類)が果実食だったことと関係があるのだろうといわれています。果実は、実って甘くなった時、最も栄養が豊富だからです。
 人間は、究極の甘味を得ようとしていろいろと探し、工夫してきました。ヨーロッパでは蜂蜜が甘味の代表となりました。砂糖が甘味料の代表となった今も「ハネムーン」という言葉が「シュガームーン」に取って代わられそうにないことからも、蜂蜜が甘味の代表だった時代が長かったことがわかります。
 一方、インドのインダス川流域ではサトウキビから糖が作られており、紀元前4世紀頃、それを見た最初のヨーロッパ人が「蜂を使わないで蜂蜜を作っている」と驚いて本国に報告しています。また、のちのギリシャの大使はこの糖を「甘い石」と呼び、それから約600年後、ギリシャの医師は「インドの塩」と呼んでいます。つまり、この古代の数百年の間にインドのサトウキビの糖は「蜜」のような液から「石」のような塊状の黒砂糖、赤砂糖を経て、「塩」のよう結晶性のものになり、砂に見立てられて「砂糖」になったわけです。
 近代に入ると、遠心分離機を使って砂糖の結晶を糖蜜から分離して「分蜜糖」が作られ、さらに活性炭などを使って脱色した糖液から、純度の高い「精製糖」が作られるようになりました。結晶の大きさによって氷糖(氷砂糖)、ザラメ糖、グラニュー糖などと呼び、細かい結晶に少量のビスコ(砂糖を加水分解したもの)を加えた車糖(上白糖、三温糖など)は家庭用や業務用に広く使われるようになりました。また、精製糖をさらに粉砕した「粉糖(パウダーシュガー)」は、洋菓子用のクリームやメレンゲ、和菓子の表面の衣や模様などにも使われています。
 グラニュー糖に糖液を少量加えていろいろな形にした「角砂糖」は、かつては喫茶店のテーブルに君臨していました。昭和初期には角砂糖の中にインスタントコーヒーを入れて、お湯を注げばできあがりという即席コーヒーも売られていました。子どもの頃、お菓子のようにかじって食べたことを覚えています。
イメージ  砂糖は菓子に料理にと大量消費され、「砂糖の消費量は文明の尺度だ」などと言われることもあります。
 私たちが普通に食べる自然の食品のなかで甘味があるのは果物類ですが、砂糖そのものの含有量は多くはありません。砂糖の原料となるのはサトウキビやサトウダイコン(甜菜)などで、そのほかサトウヤシ、サトウカエデ、サトウモロコシからもとれます。
 それにしても、キビ類の茎や野菜の根っこや木の幹など、とても甘そうに思えないものに砂糖がたくさん含まれているのは不思議なことです。まるで神様が人間の大好物をさりげなく隠しておいて、人間がそれを見つけて喜ぶ様子を楽しんでいるようでもあります。

大塚 滋 Otsuka Shigeru

食文化研究者。新潟県生まれ。大阪大学理学部化学科卒業、理学博士。大阪府立大学教員、ウスター実験生物学研究所(米・マサチューセッツ州)研究員、武庫川女子大学教授、同大学大学院教授等を経て退職。著書に『味の文化史』(朝日新聞社)、『食の文化史』(中央公論新社)、『パンと麺と日本人』(集英社)、『世界の食文化』(共編/農山漁村文化協会)ほか多数。