ヤマノイモ類は、さまざまな種類が世界中で栽培され、主食や料理材料として重要な地位を占めています。南太平洋の島々では蒸し焼き(ウム料理)にしたり茹でたりして、主食としていますし、西アフリカや東南アジアの国々でも貴重な食糧となっています。
ヤマノイモ科の1種「ヤマノイモ」は、イモ類としては珍しく日本原産で、かつては単に「いも」とか「うも」と呼ばれていたようです。しかし、奈良時代に里の平地で育つ別の種類のイモが導入されたとき、それを「里芋」と呼び、山で育つイモの方を「山の芋」「自然薯」と呼び分けるようになりました。
長く、少しくねった形のイモで、1メートル以上に育つこともあり、掘り出すのが大変です。「山の芋変じてウナギとなる」という俚諺もあり、江戸時代の川柳には「山の芋うなぎに化る法事をし」というのがあります。ウナギに化けて出てほしい気持ちがあふれています。
一方、市場で売られている「ヤマイモ」は長vい円柱状のナガイモ、塊状のヤマトイモ(つくねいも)、イチョウの葉状のイチョウイモの3つに分けられます。これらは中国原産で日本に移入された作物です。
ヤマノイモ類の多くは、たんぱく質と多糖類が結合した独特の成分による強い粘性を持つのが特徴です。この粘りを生かして、すりおろして食べる「とろろ」の食感は格別です。無頼派作家と呼ばれた檀一雄は、その滑らかな食感を「ジネンジョは美しい処女の肌」と描写しています。
また、すりおろしたものをでんぷんなどと合わせて熱するとふくらむ特性を利用して、魚介の真薯やお好み焼きの材料として使われるほか、かるかんや薯蕷饅頭など、多くの和菓子にも使われてきました。この素材が、和菓子の発展に果たした役割は、大変大きなものがあります。
中国でもヤマノイモ類は甜菜(口直しの甘い料理)の素材として知られ、ラードで揚げて飴をからませた「抜糸山薬」や、蜂蜜であえた「蜜汁山薬」などが好まれています。なお、この「山薬」の字からもわかるように、中国では古くからその薬効も知られ、重用されてきています。
食文化研究者。大阪大学理学部化学科卒業、理学博士。ウスター実験生物学研究所(米・マサチューセッツ州)研究員、武庫川女子大学教授、同大学大学院教授を歴任。著書に『味の文化史』(朝日新聞社)、『食の文化史』(中央公論新社)、『パンと麺と日本人』(集英社)、『世界の食文化』(共編/農山漁村文化協会)ほか多数。