ホーム > 和菓子探検(7) どのように削った?かき氷 No.219
冷たくて美味しい夏の風物詩といえば、かき氷ですね。
いつ頃から食べられていたのか、はっきりとはわかりませんが、清少納言の随筆『枕草子』に「あてなるもの」(優美で上品なもの)として甘葛(あまずら*1)をかけた「削り氷」(けずりひ 図1)があげられていますので、千年以上も前の平安時代中期には楽しまれていたようです。
当時は冬にできた氷を、地中や山奥に設けた氷室(ひむろ)と呼ばれる穴に運びこみ、夏まで保存していました。そのため、かき氷は大変貴重で、貴族のみが口にできる高級品でした。
図1 甘葛がけの削り氷(再現模型)
虎屋文庫蔵
ところで、かつては氷をどのように削ったのでしょうか。『枕草子』には記されていませんが、鎌倉時代初期の歌人、藤原定家の日記『明月記』にある元久元年(一二〇四)七月二十八日の記述が参考になります。定家は、歌人の源通具が削った氷を、藤原家隆らとともに食べたと書いています。この時、通具は自ら小刀を取り、白い布で氷を包んで片手で押さえながら削ったそうです。目の前で作るパフォーマンスによって、その場が盛り上がった様子が想像されますね。しかし薄く削ろうとすればするほど、氷は早く解けてしまいますので、どちらかというと砕くようにして、粒を残すようにかいていたのかもしれません。
時代は飛び、江戸時代後期に、文人の鈴木牧之が新潟の茶屋で食べた「雪の氷」には、菜切庖丁が使われています。「さらさらと音して削り」という表現からは、雪ならではのやわらかく細かい粒子や、削る際の涼しげな音が思い起こされます。
図2 「新版ねこの氷屋」(1889)
(拡大図)
虎屋文庫蔵 猫を擬人化し、繁盛する氷屋を描いた作品。明治時代、「東京横浜等の如きは(中略)五歩に一店、十歩に一舗の有様なり」(『風俗画報』第99号、1895年)と記されるほど、かき氷店が流行した。 |
図3 「氷店」『東京 築地川』のうち(1962)
鎌倉市鏑木清方記念美術館蔵
清方の幼少期(明治時代)の風景を描いたもの。
©Nemzoto
削り方に変化が生まれるのは、かき氷が普及した、明治時代のことです。明治二十年(一八八七)に、氷商の村上半三郎が手回しハンドル式のかき氷機を発明し、特許を取得。この削り機によって、現在と同じような細かい粒子の氷ができるようになりました。
とはいえ、当時の絵画史料に多く見られるのは、図2〜4のような鉋(かんな)状のもの。手軽な大きさで、かき氷屋をはじめるのに導入しやすかったためか、大正時代頃までこちらが一般的だったといわれます。これを使ったかき氷は、少々粗めで、氷の食感を楽しめるのが特徴です。
図4 かき氷屋と女性たち(明治時代)
長崎大学附属図書館蔵
ふきんで氷を押さえ、刃のついた面を上に向けた台鉋に押し付けて削った。
図5 回転式の氷削り機(昭和初期頃)
文京ふるさと歴史館蔵
戦時中に開店したあんみつ屋で使われていた。
図6 手かき氷
画像提供:羽二重餅総本舗 松岡軒
同店では現在も、白山(はくさん)の伏流水から作られた氷を、年季の入った鉋で削り、提供している。
家庭でも気軽にかき氷が食べられるようになるのは、電気冷蔵庫が普及した昭和四十年代(一九六五〜七四)以降。家庭用のかき氷機として「きょろちゃん」(図7)が流行するなど、氷の塊を回しながら削る、手動の回転式のものが中心となっていきました。
現在では、電動のかき氷機も登場し、好みの削り方に調整できると人気を集めています。ブームもあり、見た目の華やかなかき氷が増え、トッピングや味に注目しがちですが、削り方によって、ふわふわ、ガリガリなど氷の質感もさまざまですので、その違いを楽しみながら召し上がってみてはいかがでしょうか。
図7 きょろちゃん 復刻版(2016年発売)
画像提供:タイガー魔法瓶株式会社
昭和51年(1976)発売。昭和53年にデザインを大きく刷新した3代目のきょろちゃんが一躍ブームとなった。氷を削ると目が左右に動く仕様になっている。
図8 初雪氷削機 HB320A(2009年発売)
画像提供:株式会社中部コーポレーション
昭和24年(1949)から改良を重ねながら作り続けられている日本製かき氷機の定番品。雪のようにふんわりとした食感のかき氷を作ることができる。
参考 鈴木牧之『北越雪譜』二編、一八四一〜四二年。
田口哲也『氷の文化史―人と氷とのふれあいの歴史』冷凍食品新聞社、一九九四年。
『水登ともに』四二七号、水資源協会、一九九九年、二十九頁。
*1 古代から中世にかけて作られた甘味料。冬にもっとも糖度が上がる、ツタの樹液を煮詰めて作ったとされる。
小野 未稀(虎屋文庫 研究主任)
昭和48年(1973)に創設された、株式会社虎屋の資料室。虎屋歴代の古文書や古器物を収蔵するほか、和菓子に関する資料収集、調査研究を行い、機関誌『和菓子』の発行や展示の開催を通して、和菓子情報を発信しています。資料の閲覧機能はありませんが、お客様からのご質問にはできるだけお応えしています。HPで歴史上の人物と和菓子のコラムを連載中。
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