資料に見る和菓子

ホーム > 資料に見る和菓子 第十四回 No.211

竹皮

歌川広重「太平喜餅酒多多買」〈部分〉(虎屋文庫蔵)

 今回は、日本の伝統的なパッケージの一つ、竹皮に注目したいと思います。
 竹皮に包んだ食べ物というと、何を思い浮かべるでしょうか。昔ばなしに出てくるような、おにぎりを想像されるかもしれません。いつから食品の包装に使われ始めたのかはわかりませんが、手軽に入手できる素材を使って包むというのはごく自然なことだったと思われます。菓子を包むようになった時期も不明ですが、江戸時代に刊行された、京都の商人や職人についての図説書『人倫訓蒙図彙(じんりんきんもうずい)』(一六九〇)には「竹皮屋(たけのかはや)」の項目があり、「草履、笠、雪駄(せきた)の表(おもて)、其外菓子を包也」と記されています。虎屋でも元禄十五年(一七〇二)の記録に「やうかん六棹ニツヽミ入」とあるほか、図説百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』(一七一二自序)には、竹皮で包まれた羊羹や外郎(ういろう)餅の図が描かれていることから、三百年前には包装材として普及していた様子がうかがえます。

 

 時代は下りますが、第十一回で一部ご紹介した、菓子と酒が合戦を繰り広げる錦絵「太平喜餅酒多多買(たいへいきもちさけたたかい)」(一八四三〜四六)を見てみましょう。手前の団子の胴体は、「だんご」と書かれた竹皮、左上の羊羹やその前の餅類の武者装束も竹皮ですね。竹皮が描かれた作品はほかにもいくつかあり、菓子箱や菓子袋(第四回)と同様、菓子を入れ、持ち運ぶのに欠かせない存在であったことを感じさせます。


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「船橋入道ようかん」〈部分〉 「四差四文太」〈部分〉 『和漢三才図会』より「羊羹」「外郎餅」〈部分〉
(国文学研究資料館撮影/味の素食の文化センター蔵)



 食品の包装に広く使われた理由として、機能性が挙げられるでしょう。汚れがつきにくく、丈夫で破れにくいことはもちろん、ろう状の膜があり、外部からの細菌を避けてくれます。また、通気性、撥水性もある一方で、余分な水分を放出しつつ、乾燥しすぎないように調湿してくれるという特長も。このほか消臭効果もあるなど、食品を包むのに適した機能が満載といえます。

 また、機能だけでなく、見た目の美しさも魅力ではないでしょうか。竹の種類はもちろん、同じ品種でも斑文様や色の濃淡などに違いがあります。折り畳んでぴったり包んだり、たわめたりと、包み方によっても見た目が変わってきます。こうした工夫により菓子が引き立ち、より美味しく見えるようにも感じられます。錦絵に竹皮包みの菓子が描かれたのは、身近な存在というだけでなく、素朴で趣ある姿に描き手が触発されることがあったからかもしれません。

 残念ながら、昭和三十年代以降(一九五五〜)、紙製の竹皮の模造品の登場やプラスチックトレー、ラップなどの普及もあり、本物の竹皮は徐々に減り、採集業者も少なくなってしまいました。
 入手が難しくなってきた竹皮ですが、現在でも竹皮包みの菓子を大切にしている店はあります。この素材でしか出せない風情や重厚感を、これからも伝えていきたいものです。

小野 未稀(虎屋文庫 研究主事)



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「隅田川遠景」(虎屋文庫蔵)
竹皮包みの桜餅。リアルな斑文様が目をひく。
長谷川貞信「浪花自慢名物尽 駿河屋煉羊羹」
(虎屋文庫蔵)

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「あんころ餅」(圓八)
一つひとつ手作業で包んでいる。
竹皮が餡の水分を調整する役割を果たしている。
「乃し梅」(乃し梅本舗 佐藤屋)
竹皮は、厚みとコシのあるものを選んで用いるそう。
ちなみに、竹皮の採集をする「とり子さん」の熟練者が少なくなり、確保が年々大変になっているという。


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「竹皮包羊羹」(とらや)

虎屋文庫のご紹介

昭和48年(1973)に創設された、株式会社虎屋の資料室。虎屋歴代の古文書や古器物を収蔵するほか、和菓子に関する資料収集、調査研究を行い、機関誌『和菓子』の発行や展示の開催を通して、和菓子情報を発信しています。資料の閲覧機能はありませんが、お客様からのご質問にはできるだけお応えしています。HPで歴史上の人物と和菓子のコラムを連載中。

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